福岡高等裁判所 昭和27年(ナ)7号 判決
原告 井上半吾
被告 福岡県選挙管理委員会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、昭和二十六年四月二十三日施行の大牟田市議会議員選挙について被告委員会が昭和二十七年二月二十三日なした裁決書の主文中「同日(昭和二十六年四月二十三日)執行の市議会議員選挙の効力に関する訴願は棄却する」とある部分はこれを取消す、昭和二十六年四月二十三日大牟田市において施行せる市議会議員の選挙はこれを無効とする、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求の原因として次のとおり陳述した。すなわち
原告は、昭和二十六年四月二十三日施行の大牟田市議会議員選挙に立候補したものであるが、右施行当日までの間投票所入場券の二重配布等幾多の違反行為を知了し、該違反行為は選挙の結果に異動を及ぼす虞があるものと思料したので法定の期間内に大牟田市選挙管理委員会に対し、それぞれ選挙の効力に関する異議申立をなしたが同委員会はこれを採択しなかつた。それで原告は同年五月十六日被告委員会に訴願を提起したところ、同委員会は昭和二十七年二月二十三日これを理由なしとして棄却の裁決をなしたので、原告は左に理由を具して右選挙の無効なることを主張する。
一、投票所入場券二重配布の事実について
(一) 大牟田市大字手鎌(以下、大牟田市を省略する。)西田ユキ、天神町西田博、西田亥之助、西田タキ、西田茂は共に基本選挙人名簿(以下、基本名簿と略称する。)の第三投票区と第八投票区に、中島町三五番地の一松村勉、古賀文子、は共に第九投票区と第十四投票区に各重複して登載されているものであるが、大牟田市選挙管理委員会(以下、市委員会と略称する。)は昭和二十六年四月二十三日施行された同市議会議員の選挙に際しこれらの者に対し、投票所入場券(以下、入場券と略称する。)を二重に配布した外 尚(二) 投票区の異る基本名簿と補充選挙人名簿(以下、補充名簿と略称する。)とに重複登載されている者が二十五名 (三) 同一投票区の基本名簿と補充名簿とに重複登載されている者が十九名 (四) 異る投票区の補充名簿に重複登載されている者が五名あつて、これらの者にも亦入場券の二重配布をしている。従つてこれらの者はすべて二重に投票したものと推定し得られるが故に一人一票の法則に違反する行為である。
なお、元来基本名簿は毎年九月十五日現在でその日まで引続き三ケ月以来その市町村の区域内に住居を有する者の選挙資格を調査し十月三十一日までに調製し十二月二十日に確定するものであり、補充名簿は選挙を行うべき事由が発生し、選挙を行う場合にその都度基本名簿又は先に調製された補充名簿に登載されていない者で選挙権を有するものを、その選挙の期日の現在でその日まで引続き三ケ月以来その市町村の区域内に住居を有する者は、本人の申請により登録することになつていて、翌年の基本名簿が確定する日の前日までその効力を有するものである。それで若しこれを新に調製しないで前年度の名簿をそのまま使用したとすれば、それは既に効力を失つた名簿を使用したもので、もとより有効な名簿とはいえず、これは重大な調製手続違反である。
大牟田市議会議員選挙についてこれをみるに、前説示の「(一)(二)(三)(四)」の如き極めて重大な誤りがある。殊に「(三)」の如きは選挙法所定の手続を履践しているとせば絶対にあり得ない事柄である。しかもこれある点から観察すれば当年度の基本名簿を新に調製することなく前年度のそれをそのまま使用したものと断ずるの外はない、然らば究極するところ、これは名簿調製手続の違反であるからこれを用いて行つた選挙も亦無効といわなければならない。
二、自分が知らぬ間に誰かが投票していた事実について
大正町四丁目の九八、猿渡美意子は第十投票区(投票所大正小学校)の補充名簿に登載されているものであるが、入場券の配布がなかつたので選挙当日所属投票所である大正小学校に出頭し係員にその旨を告げて投票の申出をなしたところ、既にその時は何人かによつて投票が済まされ同人は投票していない事実が判明したのにも拘らず、選挙当務者は公職選挙法(以下公法と略称する。)第五十条第二項の規定を践まず右第三者投票を理由として本人の投票を拒否したが、いうまでもなく入場券の所持は投票権行使の要件ではないから、当然投票を許すべきに拘らず、これを拒んだことは投票の拒否に関する違法であり他面選挙の規定に違反する不正投票である。
三、投票所閉鎖が不統一であつたことについて
投票所は当日(昭和二十六年四月二十三日)午後六時閉鎖することになつていたが、第八投票所及び第十九投票所では午後六時過ぎても、その入口を閉鎖しないで入場を許す等の違法投票をなさしめた事実がある。
すなわち第八投票所においては午後六時の締切時刻には二列に並んでいる約百五、六十名の選挙人に対し順次入場せしめていたが、午後六時三十分頃突然選挙係員が行列の中途から両手を拡げ遮断して追い帰したが、それらの者の中約二、三十名は係員の手の下から潜入して投票した者もある。第十九投票所は定刻後も入口を閉鎖しないで入場を許した者約八十名に及び更に閉鎖後二、三十名を追い帰したが、その後二十名位の者に投票を許している事実がある。右のような次第であつて、投票所開閉の時刻が規定の時刻に違反していた為めに、違法に投票することを妨げられ又は違法に投票することを得た者無数であつて到底これを算定することは不可能で選挙の自由と公正は完全に阻害されているから該選挙は無効である。
四、死亡者が普通投票をしていた事実について
新港町六番地、小森勝逸は昭和二十六年四月二十日、八尻町三丁目三七番地、小宮正光は同月十八日共に死亡しているのにも拘らず、選挙当日何者かが右死亡者等の名義を冒用して普通投票をなして居るが、これは正しく第三者による不正投票である。
五、死亡者が不在者投票をしている事実について
平原町一三二番地の二、池尻チヨは第十二投票区の基本名簿に明治町二番地の二九、猿渡初治は第八投票区の基本名簿に各登載されているものであるところ、前者は昭和二十六年四月十七日、後者は同月十九日いずれも死亡しているのに拘らず、投票録及び不在投票に関する調書によれば、右死亡者等が不在者投票をなしているように処理され、しかもその投票は投票管理者において有効に受理されているが、これらはもとよりこれを有効とされる理由はない。
六、開票立会人の選任方法が法令に違反して行われたことについて
開票立会人の選任は公法第六十二条第一項の規定によつて届出のあつた者が十人を越えるときは、届出のあつた者において十人を互選しなければならないことは同条第二項の規定に徴しまことに明かである。然るに第二、第六開票所においては右法条所定の方式を履践しないで昭和二十六年四月二十一日抽籤の方法によつて開票立会人を決定したから、原告は即時それに対し異議の申立をなしたところ、市委員会は同日午後九時頃委員長川崎源吾外五名が原告の選挙事務所を訪れ、その取消方を懇請したが不調となり、翌二十二日午前一時頃遂に決裂するに至つた。それで市委員会は直に互選の方法を取らなくてはならないのに拘らず、右抽籤による開票立会人をしてそのまま開票に立会わしめているが、之は明かに法の精神に背馳した措置であつて立会人の構成に関する違反である。
七、開票管理者平田憲市が投票用紙を故意に所持していた事実について
およそ開票管理者等選挙にたずさわる者は最も公正にして厳粛であらねばならない責務をにのうものである。然るに開票管理者であつた市吏員平田憲市は開票当日、開票開始前第四開票所において市長選挙の投票用紙を所持していたが、たまたま同用紙を参観人の面前において懐中から取り落したので、その実状を目撃した参観人の一人は即時現場において提示を求めたが、平田はあわててこれを破棄せんとした事実がある。これらはあくまでも公正厳粛であらねばならないはずの選挙関係者がその職権を濫用して不正に数の増減を図り選挙の自由公正な執行を阻害したものであつて、公法第三十六条、第四十五条及び第四十六条の規定に違反するのはもとより、同法第二百二十六条の規定にも該当するものと思料せられる。
八、得票数の疑点について
市委員会発表の市議会議員選挙における各候補者の得票数は前点平田問題の事実に徴しても相当の不正を包蔵せられていることを推認するに十分であるが、現に各候補者の得票数をからくりされた違法がある。すなわち市議会議員選挙の開票結果について、市委員会は山口末松分に対し一、二一〇票と発表したがその実数は一、二〇〇票であり、兼行佐一分は二〇五票と発表したが、その実数は二一五票であり、上村彌太郎分は五四〇票と発表したが、その実数は五六〇票であり、草野義臣分は二九七票と発表したが、その実数は二三七票であり戸上義成分は一、二三四票と発表したが、その実数は一、二三八票であり、江上十吉分は三五七票と発表したが、その実数は二六七票であり、大津和歌一分は五七六票と発表したが、その実数は五八一票であり、坂井親義分は九六六票と発表したが、その実数は八九六票であり、上野作次郎分は四四二票と発表したが、その実数は四五四票であり、花田広分は四八八票と発表したが、その実数は四八三票であり、上野栄雄分は八一八票と発表したが、その実数は八一七票である。こうしたことは開票管理者の投票用紙の不正所持又は開票事務担当者の不正改ざん等に起因するものであつて、管理者及び立会人の職務執行に関する違法であるというべきである。
九、投票記載場所の明示を怠つていた事実について
およそ多くの選挙人は選挙そのものについて非常に無智不案内のものが多いのであるから、投票所はすべからく整然且明瞭に表示すべきである。殊に市長、市議会議員の同時選挙においてはなおさらのことである。
然るに第十七投票所(川尻小学校)では、同一場所において、市長、市議会議員の投票記載場所の明示を怠つていたために、右両者相互の投票用紙を間違え投票した者が約八百名に上つている。なおその他の投票所においても明示を十分にしなかつたために右様な誤り投票をしたところがある。この事実は市議会議員選挙の立候補者百四十二人に対し無効投票三千票余を出しているに過ぎないが、市長選挙はその立候補者僅か二人に対し五千票余の多数を算したことに照応しこれを窺知することが容易である。こうしたことは市委員会が公法施行令第三十二条の規定を守らないで設備の万全を怠つたことに胚胎し居るものであつて、これがために選挙の結果に著大な異動を及ぼしているものであるから選挙の自由公正を阻害していることは勿論である。
十、投票代筆について
身体の故障又は文盲によつて自ら当該選挙の公職の候補者の氏名を記載することができない選挙人は、公法第四十八条第一項及び同法施行令第三十九条の規定に則つてそれぞれ投票をなすことができるのであるが、文盲者である大字岬黒崎、山本アサノ、同所内野ハル、唐船北奥園フサの代理投票に際しては補助者の立会もなく、又文盲者に読聞かせもしないのみか、山本アサノの分は代筆者が独断で投函しているのであるが、これらはすべて右法規違反であつて選挙の自由公正を害するものといわねばならない。
十一、投票立会人の封印について
投票管理者は投票が結了したときは投票函を閉鎖しなくてはならないのであるが、大牟田市においてはその閉鎖の慣例として投票立会人と共に封印をなすことになつている。それはいうまでもなく不正が行われないための処置である。それでこれを開く場合は閉鎖措置としての封印が果して汚損破棄された痕跡なきや、すなわち異常の有無について封印者をして確めしる必要あることはその性格からして自明である。然るに開票管理者が各開票所とも投票箱を開くに当り封印者の立会を求めることなく勝手にこれをなしたことは、法の精神を無視するの著大なものがある。殊に第二十六投票所(笹原小学校)の投票箱の送致は市のトラツクを以てこれをなされたが、そのトラツクには投票管理者は勿論、投票立会人等一人も便乗せず、ただ警察員一人が便乗して輸送したものであるが、その途中教楽来トンネル西方約二百米附近において投票箱がトラツク上から落下しこれがために該投票箱は破壊し、投票は附近に散乱する等の大なる事故を惹き起さして居る。これはいうまでもなく選挙の結果に異動を生ずる虞のある事故であるから、当該管理者は厳重にこれを調査検討すべきである。然るにこれに対する何等の措置を講じないで、そのまま開票したことは管理者及び立会人の職務執行の違法ある一面投票箱管理に関する違法であつて選挙の自由公正を阻害したものである。
十二、本人が知らぬ間に選挙管理委員会が投票していたことについて
古町四番地古賀クニ、同町城戸作太郎、西有明町三番地末広静江、七浦町五一番地大久保ツル、同町一九番地下川ハル、片平町一四三番地原田登、三里町二丁目九四〇番地松岡五郎の七名は投票していないのに、投票所受付簿及び選挙人名簿によれば投票済みとなつているが、これらは市委員会において数を合わせるために右各掲記の本人以外の者をして投票せしめたものであつて、しかも開票後に敢行された不正行為である。こうしたことは管理者及び立会人の職務執行に関する違法であつて、選挙の自由公正な執行を阻害すること甚だ大なりというべきである。
十三、本人が知らぬ間に投票権が拒否されていることについて
古町井戸川いちは知事、県議会議員、市長及び市議会議員の選挙には、すべて不在者投票をしているのにも拘らず、知事と県議会議員の選挙のみが不在投票になつており、市長及び市議会議員の選挙における投票は拒否されている。
十四、本人が知らぬ間に他人の名と取替えてあることについて
西浜田町七番地藤山世智子は第九投票区(投票所、中友小学校)の補充名簿に登載されている選挙人であるが、市議会議員選挙当日は投票所へ開場約一時間前に到着し、既に先着者十名あつて八番目に投票を了したものである。然るに投票所受付簿には全然その旨の記載なく、いつの間にか「鷹尾チトセ」と取替えてあるが、これらは選挙関係者において何等かの策動をこらした不正行為の顕現とみるべきであつて、関係帳簿の改ざんの跡歴然たるものがある。これらの点からして市委員会が如何に選挙の自由公正を阻害しているか推測するに十分なるものがある。
十五、本人が知らぬ間に選挙管理委員会が二重投票せしめていることについて
大字川尻二六三番地岡本秋義は第二十一投票区(投票所、駛馬支所)の基本名簿に登載されている選挙人であるが、市議会議員選挙当日は正午頃投票所に到着し直に投票を終えて帰宅した。然るに右選挙人不知の間に、同投票所受付簿の第三、二五七番(最終から二番目)で再び投票したようになつているが、これも前点と同様選挙関係者の違法行為を物語る一あらわれであつて、第十二点と同様投票数が投票者数より多かつたためになされた違法行為であつて選挙の自由公正を害したものである。
十六、市外転出者が投票していることについて
大字藤田三七八番地山中清子外三百七十九名は、市議会議員選挙期日の前日までに大牟田市外に転出しているに拘らず、これらの者もひとしく投票を了しているのであるが、これはもとより違法行為であつて無効といわねばならない。かように多数の市外転出者を有権者として選挙人名簿に登載し、又は同人等に入場券の二重配布をなしたことは、選挙人名簿を調製するに当つて公法第二十六条、同法施行令第十七条等の規定を守らないで不正確なる選挙人名簿によつて行つたことに胚胎したすなわち第一点と同様選挙人名簿調製手続の違反から起つたものであつて、選挙の自由公正を毀損するもの極めて大なるものがある。
十七、偽名投票の実例について
入船町六八番地の二松尾義太郎は、昭和二十六年四月二十三日施行された市議会議員選挙に際し、立候補した梶原隼太に当選を得しめる目的をもつて、右投票当日予て入手していた選挙人小森勝逸、荒木春光、石橋勝喜、末永茂、水間功の各市議会議員選挙の入場券を、右小森分は諏訪小学校、荒木分は三里小学校、石橋、末永両名分は三川小学校、水間分は川尻小学校の各市内の指定投票所において使用し、恰も当該入場券記載の選挙人本人が真実に投票をなしたもののように装つて不正投票をなしている。
なお選挙人長崎昭和、神田又市、宮崎ツタは、いずれも投票を了しているかの如く装われてあるが、これらの者は真実投票していないので、これ亦第三者の不正投票とみるべきである。
十八、有効投票が無効となつた事実について
第五開票所において候補者「上野栄雄」を誤つて「上野英雄」と書いた投票二票を無効とされているが、これは有効投票として右上野候補者の得票に加算すべきである。
十九、不在者投票について
市委員会保管の投票済不在投票用封筒及び不在者投票に関する調書によれば、
不在投票状況は、
発行総数 二、一六六(市長、市議会議員同数)
市 長 二、〇七六
受付数
市議会議員 二、〇七八
市 長 二、〇七六
投票総数
市議会議員 二、〇七八
市 長 九〇
投票用紙未返還数
市議会議員 八八
となるのであるが、市委員会発表の不在者投票状況は
発行総数 二、一六六
受付数 二、〇八七 (郵送分を含む。但し一票のみ送付せるものも有効とする)
投票総数 二、〇八七 (市長、市議会議員は同数)
投票用紙未返還数 七九
であつて、右前後者の間に相当の誤差を生じている。すなわち発行総数は合致しているが、受付数並に投票総数において市長に各十一票、市議会議員に各九票の誤差があつて確定しがたい状態にあるが、これらは前示第八点と同様数を合わせるための手続の違法行為をなしたものであつて、もとより選挙の公正を阻害するものといわねばならない。
二十、投票数より開票数が多い実例について
市委員会発表にかかる第十八投票所における投票数は三、六九一票、不在者投票数は七五票、計三、七六六票となつているがその実際は投票数三、六九二票、不在者投票数六八票、計三、七六〇票となつていて投票数より開票数が六票多くなつている。又第十二投票所における投票数は四、九三二票、不在者投票数一一三票、計五、〇四五票と発表されているが、その実際は投票数四、九二八票、不在者投票数一一二票、計五、〇四〇票となつているから、これ亦投票数より開票数が五票超過している。更に又市委員会は昭和二十六年八月三十一日午前には第三開票区(中友校区)における投票者総数は一四、四八四名、棄権者総数は一、五三〇名と証明しているに拘らず、同日午後には同委員会において同開票区の棄権者は山本伝蔵外一、五〇〇名、すなわち一、五〇一名と具体的に氏名を挙げて証明され明かに二九名を減じているから、自然投票者総数は前示一四、四八四名にこの二九名を加算した一四、五一三名とならなくてはならない。然るにこれを一四、四八四名として整理されていることは正しく二九名の有効投票を故意又は過失によつて亡失させているものというべく、こうしたことはいうまでもなく管理者及び立会人等の職務執行に関する違法によつて醸されたものであつて第八点並に前点と同様選挙の自由公正を妨げ選挙の結果に大なる異動を及ぼすの虞があるものというべきである。
二十一、投票用紙残数焼却の件について
市委員会は当初焼却数は一千何枚だと言明していたのにも拘らず後日前言を飜して、
購入総数 一〇二、〇〇〇枚
使用実数 九〇、三八三枚
焼却枚数 二一二枚
差引残数 一一、四〇五枚
と変更し、右前後の発表に頗る疑念を懐くものであるが、仮に右変更数を正しいとするも投票総数は九〇、二九六人(不在者投票を含む。)であるから使用実数に八十七枚の不足を生ずることとなるが、該不足用紙は全く疑問の裡に葬られている。
而して右購入した十万二千枚の投票用紙は初め十万枚を福岡刑務所に印刷せしめたが、有権者の増加と購入投票用紙の中に印刷不良物等があつたので、更に熊本市所在、株式会社稲本報徳舎で二千枚を追加印刷せしめたものであるといつているが、一万一千四百五枚という多数の残ある点からして有権者の増加見越理由は信じ難く、更に又何を好んで不足見越分をわざわざ隣県の印刷所から購入しなければならない理由があるか、市委員会のいい草は甚だ疑問の存するところであつて、かたがた焼却の事実はこれを認めることはできない。それで右不足分の八十七枚と、焼却されたという二百十二枚はいわゆる投票用紙の交付に関する違法の下に不正行使せられたものというの外なく、こうした不正票の算定は不可能であつて、しかも選挙の自由公正を阻害するの甚だしいものである。
二十二、市委員会発表の失格者、誤載者、不在投票者、不在者投票用紙未返還者、死亡者の誤差について
市委員会の統計表は、選挙人名簿による実態調査によつて次のように誤差を生じている事実からして、同委員会の公表した投票数及び各候補者の得票数等の統計は正確であると認めることはできない。
開票区
死亡
失格者
誤載
不在者投票数
投票用紙未返還の数
第一
市統計数
一一二
三〇五
一二
五〇二
一三
調査数
一一四
二九〇
一三
四四五
三三
第二
市統計数
四六
一八一
二
一三六
四
調査数
四六
一八二
六
一二〇
四
第三
市統計数
八一
四三二
二〇
三三四
一二
調査数
八〇
三七二
四五
二九一
九
第四
市統計数
一四八
六四八
一六
三八五
二二
調査数
一五四
六五二
一九
三五五
二五
第五
市統計数
一一二
一、〇八四
一四
三四四
一四
調査数
一一三
一、〇四三
二三
三四〇
二二
第六
市統計数
九〇
六五六
一二
三八六
一四
調査数
九八
六八七
一一
三四九
一〇
計
市選管統計数
五九八
三、三〇七
七六
三、〇八七
七九
計
実態調査数
六〇五
三、二二五
一一七
一、九〇〇
一〇三
誤差数
七
八二
四一
一八七
二四
右表のように市委員会の調査数とその実態との間に相当の増減を来していることは、第十九点乃至第二十一点と同様規定違反によるものであつて選挙の公正を害するものである。
二十三、投票用紙の様式及び交付に関する違法について
投票用紙は公給主義に則つて、選挙管理委員会(以下、単に選管委と称する。)において調製し、選挙の当日投票所において選管委からこれを選挙人に交付すべき筋合のものであつて、しかもこれには常に当該選挙に関する事務を管理する選管委において捺印すべきである。故に以上所定に欠くるものがあつたとすれば、それはもとより違法であつて選挙の無効原因を組成すべきである。それで今、大牟田市議会議員選挙の場合をみるに
(一) 投票用紙はすべて大牟田市選管委の公印を押捺しないで、その全部について「市印」を押してあるので、該投票用紙は大牟田市選管委の調製ではなく大牟田市の調製にかかるものといわねばならない。而して大牟田市は選挙当日右用紙を大牟田市選管委を通じて選挙人に交付していることになつているが、大牟田市は選挙管理事務に関しては直接には何等の権限をも有しないのであるから、投票用紙を選挙人に交付することも亦所管外の事務といわねばならない。してみれば大牟田市があえてこの事務を摂行したことは投票用紙の様式及び交付に関する違法であつて選挙の無効を来すものというべきである。仮に大牟田市選管委が適法に選挙人に交付して、選挙を為さしめたものとするも、該用紙に大牟田市印を押捺し、大牟田市選管委の公印の押捺を遺脱しあることは、まさしく様式違反であつて違法である。すなわち市選管委が自らの公印を押さないで市印を押すとせば、予め市選挙管委は、その旨の規則を制定告示しなくてはならない。然るにその措置を採らず前陳の様に市印を押していることは様式違反であるからこれによつて行われた選挙は無効である。
(二) 候補者西山源蔵、平野梅吉、大森末、井形益太、今村作一、梅崎治吉、古賀初太郎、古賀初男等に対する投票中各一票、本村常雄に対する投票中二票計十票は何れもその投票用紙に全然捺印なく(甲二一五乃至甲二二三の二)果して大牟田市選管委から公給されたものであるか否か全く不明であつて、明かに選挙の規定に違反し選挙無効の一因をなすものである。
二十四、投票用紙の不正購入について
被告は、大牟田市選管委は初め投票用紙十万枚を福岡刑務所から購入したが、有権者の増加と購入投票用紙の中に印刷不良のものがあつたので、熊本市京町株式会社稲本報徳舎から二千票を追加購入したとの事実を確認し、原告の訴願理由を排斥しているから、この点について調査するに、(イ)大牟田市選管委としては右被告主張のような事実はないが、(ロ)大牟田市において昭和二十六年四月二十日納期を同月二十八日として熊本市稲本篤行にこれを発注し、右納期日である四月二十八日に検収していることをしたためた文書の存在はこれを認め得るも、果してこれに伴う投票用紙が検収されたか否か、これを確認することはできない。すなわち右二千票を追加購入するに当つて作成された発註伝票は、納入期限昭和二十五年十二月二十日から同二十七年三月十日までの間における第一乃至第七〇五号までの書籍式に装釘された註文伝票控中の一葉であるが、本伝票を除いた他の伝票はそのすべてが「注文控」となつているのに反し、本伝票のみは「註文伝票」となつている。そして号数は第二六三号とはなつているが、それは第二六二の次に本票を糊で貼り付けられ、しかも第二六四号は欠号となつている。又本票の前後票の納入期は昭和二十六年になつているのに拘らず、本票は昭和二十七年と明記されてあつた「七」の字の上に「六」と駄目書(書替)をなし何等訂正印のみるべきものもなく、なおその他本票は様式的に他票と相当の差異を来している。又物品請求購入票は前説示のように発註先住所氏名は熊本市稲本篤行、品名は投票用紙、数量二、〇〇〇枚、見積金一、〇〇〇円、請求書受理回付昭和二十六年四月二十八日となつていて、その内数量四、〇〇〇枚を二、〇〇〇枚と訂正し、金額二、〇〇〇円とある「二」の字を無理に「一」と直し一、〇〇〇円のようにみせかけてある。かようにまことにみえすいた著大なる違法処置の下に購入されたという二千票の追加票が検収されているという被告主張はこれを認めることはできない。
仮に検収されているものとすれば、前説示の経過からして二千枚ではなく確かに四千枚を発注入手しているものであるが、元来該選挙用紙は四月二十三日の投票期日に必要であつてそれ以後においては絶対必要のないものを、右投票期日を五日も経過した四月二十八日を納期として注文していることは通常吾人の理解し能わざるところである。しかもこれが購入に当つては、その前後に亘り終始極秘の裡に行動し、証書の偽造又は変造をあえてなし、更に市選管委はその入手票の中二千枚は選挙前既に実在しあつたかのように仮装し、その使用数、焼却数及び残票を、二十一訴因掲記の如くそれぞれ算出報告してあることは完全なる一種のからくりであるというべきである。而して右の入手票四千枚の中右からくり票二千枚を除いた他の二千枚は何処に使用されたか。前示一連の不法行為を結集考量すれば無を有として、からくりせられた前説示の二千票と緊密なる関係あることは容易に首肯することができるのであつて、要は選挙管理執行者等の不当措置の結論と認めるべきである。こうしたことは選挙管理執行者等の故意又は重大なる過失による違法であり、しかもこの違法行為によつて醸成された投票は測り知れない影響を受け選挙の自由と公正は根本的に破壊されているのであるから、選挙の無効原因を組成しているものと信ずる。
二十五、第三開票区の無効投票全部亡失について
第三開票区の無効投票については、その全部を開票当日、当該開票所から大牟田市選管委までの運搬途中、紛失又は盗難にかかり亡失している。従つてその後に開催された選挙会においては、選挙立会人の報告を受けることも亦その報告を調査することもなく、そのまま漫然と各候補者の得票数を計算して当落の確認をなしているから、この点に関する手続上の違反あり該違反は明かに選挙の当落を不明確にし、その自由公正を阻害するの甚だしいものというべきである。
二十六、各開票所の有効票包装袋の破損について
開票後の投票紙は最も強靱なる包装の下に厳秘し厳正なる保管をなすべきである。けだし開票後幾多の原因からなる争訟の対象となるべき事例は極めて多いからである。
大牟田市選管委の保管にかかる有効票包装袋は第一乃至第六開票所に各一袋宛都合六袋に区分されているが、
(一) 第三開票所分を除く他の五袋はすべて「昭和二十六年六月二十七日調査の為め福岡県選挙管理委員会に於て開封」としたためた貼紙がしてあるが、開封した後を繕つた個所には県選管委の責任印の押捺なく市選管委の印のみを押してある。
(二) 第三開票所の有効票の包装袋は、昭和二十六年六月二十七日県選管委において開封した後別異の袋と取替えている。
なお
第一開票所の有効票包装袋は、
右の外三ケ所の開封個所があるが何故にこれを開封したか、その事由の記載がない。なお包装紙は破損して投票用紙を自由に出し入れし得る状況に放置されている。
第二開票所の有効票包装袋は、
右の外、袋の底部は一応開いて更に糊付けしたものであるが、開いた後には何等契印もなく責任者の押印もない。又有効投票数の記載もない。
第三開票所の有効票包装袋は、
右の外、袋を開いた形跡はないが、選挙立会人の封印なく市選管委の印及び係員の私印を押捺してあるのみである。
第四開票所の有効票包装袋は、
右の外、三ケ所開封の跡があるが、その個所にはただ市選管委の印を押捺してあるのみで開封の事由については何等の記載はない。なお袋の横の継目が破損したため修復した形跡がある。而して投票総数の記載が洩れている。
第五開票所の有効票包装袋は、
右の外、四ケ所開封の跡があるも、その個所には市選管委の印のみ押捺し、開封の事由については何等の附記もなく、ただ鉛筆を以て「市議<五>」の文字が記載してあるのみである。
第六開票所有効票包装袋は、
右の外、二ケ所開封されてあるが、その事由の附記なく市選管委の印を押捺しあるのみでなお総票数の記載もない。
二十七、得票数と発表数との誤差について
候補者の得票数の算定並にその発表は、最も厳粛にこれをしなければならないこと勿論のことで、選挙管理者は、その職務執行については細心の注意義務をにのうべきであるのにも拘らず、現実の得票数と発表数との間に別紙第一表掲記のように実に二十七人の多きに亘つて誤差を生じている。これらはすべて管理者の不正又は極めて重大なる過失によつて醸された違法であつて、選挙の自由公正を阻害するの甚だしいものである。
二十八、有効投票中無効とみるべき票について
大牟田市選管委が有効として認定しているものの中、他事記入又は他候補者名を抹消したもの又は同一人の筆跡とみられるもの、甚だしきに至つては市長選挙用紙を用いたものを有効投票として取扱つたもの等々別紙第二表掲記のように合計三千八百九十七票の無効票が包含されているが、かように多数の無効票を有効として認められあることはいうまでもなく管理者及び立会人の職務執行に関する違法に基因するものであつて、こうしたことはまさしく選挙の自由公正を害い選挙の無効を来たすべきものというべきである。
二十九、無効投票中有効とみるべき票について
大牟田市選管委が無効として取上げているものの中、
高田政ヲは候補者高田又雄の (甲三五六の一)
上野英雄は同上野栄雄の (同号証の二)
山口高徳は同山口高徳の (同号証の三)
藤田国雄は同藤田光雄の (同号証の四)
長江英は同長江英雄の (同号証の五)
井上は同井上半吾の (同号証の六)
ゴロは同梅崎五郎の (同号証の七)
ジは同古賀治の (同号証の八)
福永信太郎は同福永清太郎の (同号証の九)
野田岩雄は同野田三男の (同号証の一〇)
各得票とみるべきであつて決して無効とすべきものではない。こうしたことはこれ亦管理者及び立会人の職務執行に関する違法であつて選挙の自由公正を阻害するものである。
三十、投票用紙に細かい折目があつて投票前その用紙を持ち廻つているものと見做さるべきものについて
およそ選挙人は、投票場において係員から投票紙の交付を受くればこれを折り畳むことなく、そのまま被選挙人の名を記入して投票箱に投入するを例としている。
然るに無効投票中八枚(内一枚は市印もない)は投票用紙を細かくたたみ投票前に持ち廻つている形跡がある。これらは選挙の不正を推認せしむべきものであつて延いて選挙の自由公正を害するものというべきである。(甲第三五九の一乃至七、甲第三六〇)
三十一、県議会議員選挙用紙の投入について
市議会議員選挙は四月二十三日に施行されたのに同月三十日に施行せらるべき県議会議員の投票用紙を投入していることは、明かに管理者の職務執行に関する違反であつて不法選挙の行われていることを推認されるものであつて、選挙の自由公正を阻害するものである。(甲三六一)
三十二、残票について
残票は、大牟田市選管委は一万一千四百四枚ありといい、これを百枚一束にして白紙で巻き、その上に百と算用数字で記載しているけれども、その内容は別紙第三表の如く破損したものや著しく汚損したもの又は印刷不正確なもの等々明かに選挙投票用紙として使用に堪えないものまでもこれをかき集め、辛うじて数を合せているが、これらの実状は「昭和二十六年四月十二日委員長の決裁を経て印刷不良及び破損等の投票用紙二一二枚を焼却した。」という大牟田市選管委のいい草をそのまま鵜呑みにして主張する被告の答弁と矛盾するもの甚だしいものがある。けだし若し被告答弁のように、果して不良又は破損票二一二枚を焼却したとすれば、こうした現象はあらわれるはずのものではないからである。これらは選挙に不正が行われていることを明確にあらわしているものであつて、管理者の職務執行に関する違法あるは勿論、選挙の自由公正を阻害することまことに著大である。
三十三、大牟田市選管委の発表にかかる残票の誤差にもとずく不正措置について
大牟田市選管委の発表によれば、投票用紙購入総数は、市議会は十万二千枚でその中九万三百八十三枚を使用し、二百十二枚を焼却したので、一万一千四百五枚の残数があつたと(検証の際は一一、四〇四枚と説明した。)いうけれども、仮にその数を認めるとしても、投票終了直後には九千四百五枚の残票しかなく、それから五日を過ぎた二十八日に、二千枚を購入して一万一千四百五枚の残票となつたことは「二十四」点の説示によつて明かに首肯せられるのである。然るに現在その実数は一万一千四百十一枚あつて、市選管委の発表数より六枚(検証時の説明数より七枚)多くなつている。而して前示「二十七」点説示のように発表数より実際得票数が三十六票の減を来たしていることと、「二十八」点における市長選挙用紙を用いた投票を有効としていた八票の減と、「三十一」点の県議会議員投票用紙一票の減と、更に投票数に算入されてある船員投票用紙一票の減と、更に投票数に算入されてある船員投票の二票(検証番号51 58)とを参酌すれば、市議会議員投票用紙は九万三百八十三枚から四十七枚を控除した九万三百三十六枚を使用していることになるから、結局一万一千四百五十二枚の残票がなくてはならないのに、市選管委の発表は、前陳のように一万一千四百五枚(検証時の説明は一万一千四百四枚)であるから、四十七枚の不足(検証時の説明によれば四十八枚)を生ずるのである。ところが実際残数は一万一千四百十一枚となつているから、究極するところ四十一枚の不足を来している。この不足票は選挙関係者において不正に使用又は措置されてあるものと思われる。このことたるや右説示のように絶対に符合し得ないものを恰かも明確に符合したかのように購入数幾何、使用数幾何、焼却数幾何、残数幾何と一票の誤差もない様に確然と故意に一応の数字を合致せしめている事実に徴し明認することができる。こうしたことも亦管理者及び立会人の職務執行に関する違法であつてもとより選挙の自由公正を阻害するの甚だ大なるものがある。
以上の各事実は、各その項目毎に説示したようにすべて選挙の規定に違反していることは勿論、該違反行為は選挙の結果に異動を及ぼす虞ありと思料すべき事由あることも亦既に述べたとおりである。もつとも叙上の事実を個々に引離してこれを個別的に吟味すれば、第十三点、第十八点の如き或は公法二百五条所定の理由に乏しいといい得るものなしとしないが、原告は原告の主張自体によつて明かであるように、右の各事実を綜合して請求の原因とするものであるから、これを累積統合するときは、選挙無効原因の一つとして採用せらるべく、さすれば大牟田市議会議員選挙は全くその有効とすべき根抵を喪失することになるからまさしく無効とすべきである(立証省略)。
被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、原告主張事実中、原告が昭和二十六年四月二十三日施行の大牟田市議会議員選挙に立候補したこと、原告が法定の期間内に同市選挙管理委員会に対し右選挙の効力に関する異議申立をなしたが同委員会においてこれを採択しなかつたこと、更に原告がその主張の日に被告委員会に対し訴願を提起したが被告委員会において原告主張の日にこれが棄却の裁決をなしたことは、いずれもこれを認め、その余の原告主張にかかる一乃至三十三の請求原因事実に対しては順次次のとおり述べた。すなわち
一、の点について
原告主張事実は全部否認する。
二、の点について
原告主張事実中、猿渡美意子が第十投票区(投票所、大正小学校)の補充名籍に登載されているものであつて、入場券の配布がなかつたので選挙当日所属投票所に出頭し、係員にその旨を告げて投票の申出をなしたところ、既にその時は何人かによつて投票がなされ同人は投票していないことは認めるが、その余の点は否認する。なお原告主張の事実は選挙無効の原因となる事項ではない。
三、の点について
原告主張事実は全部否認する。
四、の点について
小森勝逸に関する原告主張事実は認めるが、その余の事実は否認する。なお原告主張の事実は選挙無効の原因となる事項ではない。
五、の点について
池尻チヨ、猿渡初次に関する原告主張事実は認めるが、右の事実も選挙無効の原因となる事項ではない。
六、の点について
第二、第六開票所において開票立会人を抽籤の方法により決定したことは認めるが、右のように抽籤の方法によつて開票立会人を決定したがために選挙が無効となるものではない。
七、の点について
開票管理者平田憲市が開票当日開票開始前に市長選挙の投票用紙を所持していたことは事実であるが、かかる事態が発生したのは、投票当日投票所閉鎖後に投票用紙の残数と投票人総数を照合し終つた際、机の上においていた開票立会人名簿を四つに折りたたみ洋服の上着の左ポケツトに入れた時に名簿と一緒に入つたものと想像されるところであつて、同人が開票に際し不正を行う意図があつたとは認められず、又市長選挙の投票用紙数と残数との不突合は開票管理者の所持した一枚のみである事実よりして他に投票用紙が不正に使用されたとは認められないので、原告において投票用紙が不正に使用されたと認められるような具体的立証のない以上、開票管理者が投票用紙を所持していた事実のみを以ては、選挙管理当事者の不正を暴露したものとも認められず、勿論職権を利用し選挙の自由公正を妨害せんとするものであるとも認められない。
八、の点について
原告主張事実は全部否認する。
九、の点について
原告主張事実は全部否認する。
十、の点について
山本アサノ、内野ハル、奥園フサが代理投票をしたことは相違ないが同人等から公法第四十八条第一項の規定によつて代理投票の申請があつたので、同条の規定により投票立会人の意見を聴いて公法施行令第三十九条の規定にもとずき投票立会人の中より一名、事務従事者の中より一名、計二名の補助者を指定して、その一名に同人等が指示する候補者の氏名を記載させ、他の一名をこれに立合わせ、又補助者は同施行令のとおり確実に実施したものである。
又仮に代筆者が同人等に読み聞かせずして投票箱に投入したとしても、公法施行令第三十七条の規定により無効となるものではないから原告の主張は何等理由がない。
十一、の点について
開票管理者が投票箱を開くに当り、封印者の立会を求めなかつたとの点については、元来投票立会人の投票箱の封印は開票まで不正が行われないための処置であり、開票管理者が、これを開く場合において投票立会人の了解を得ることは必要でない。又公法第五十五条の規定により送致された投票箱を開票当日開票管理者が開票立会人と点検の上、開箱し開票を始めることは開票管理者の権限であつて、何等投票立会人の封印の意義を無視したものではなく、法令に規定せられた当然の行為である。なお第二十六投票所の投票箱について、その輸送途中原告主張のような事故が発生した事実は否認する。
十二、乃至十五、の点について
原告の主張事実は全部否認する。
十六、の点について
原告は、市外転出者三百八十名が投票している旨主張するが、その内二名は重複しているから実数は三百七十八名となる。従つて右三百七十八名について調査するに、その内二百九名はいずれも大牟田市に住所を有し且他に欠格事由も認められないもので、百八名は棄権者、一名は市外転出者であるが投票せず、九名は本人が投票せず他の者が不正投票していて、残り五十一名が転出者で本件選挙期日には大牟田市に住所を有せず従つて選挙権を有しないものであるから、これらの者の投票はすべて無効たるを免れないけれどもかかる選挙権のない者のした投票の無効を主張するのは、当選争訟の問題で選挙争訟でとりあげるべきものではない。而してこれらの転出者は大多数が有効に選挙人名簿に登載された後に転出したもので、選挙人名簿の確定当時は選挙権のあつたものである。もつとも一部少数の無権利者を結果から見て、せんさく不十分で選挙人名簿に登載されたことも認めざるを得ない。然しかかることを以て名簿調製手続に違反があつたとすることはできない。
十七、の点について
松尾義太郎が、原告主張のように候補者梶原隼太に当選を得しめる目的で入手した選挙人小森勝逸外四名の投票所入場券を使用し右選挙人自身が真実投票をなすもののように装つて投票した事実及び選挙人長崎昭和、神田又市、宮崎ツタも投票したようになつているが、実際は投票していない事実は認める。
従つて以上八名分の投票は無効たるを免れないけれども、これも選挙無効の原因となる事項ではない。
十八、の点について
第五開票所において「上野英雄」と記載した投票が一票だけあることは認める。そして「上野英雄」は候補者上野栄雄に通ずるから上野栄雄の誤記と認められ、公職の候補者の何人を記載したか確認し難いものに該当しないので、原告の主張どおりこの投票は有効投票と認められ得るとしても、このことも亦選挙無効の原因となる事項ではない。
十九、の点について
市委員会保管の投票済不在者投票用封筒及び不在者投票に関する調書による不在者投票状況並に市委員会発表の不在者投票状況が、いずれも原告主張のとおりであり被告委員会の調査の結果と誤差を生ずるが、右は市委員会において、本件市議会議員選挙が市長選挙と同時選挙であるため、不在者投票を市長或は市議会議員の選挙のいずれか一方のみ行つた場合でも当然両選挙の投票者数となるとの見解の下に不在者投票を処理したためであるが、公法第十二章の同時選挙の規定は別々の選挙を単に選挙執行上の便宜から同時に行わしめるための特別規定であつて、別々の選挙を同一の選挙とみなしたものでないことは勿論である。従つて一方の選挙のみ不在者投票したものは同時選挙であつても両選挙の投票者とはならない。又市委員会がかかる処理をした結果、当然不在者投票者数と不在者投票数は初から誤差を生ずることとなつたのである。そこで市委員会発表の不在者投票者数二、〇八七(市長、市議会議員同数)は、市長二、〇七六、市議会議員二、〇七八と訂正を要し、又その結果投票人総数九〇、二九六(不在者投票を含む)との発表は、市長九〇、二八五、市議会議員九〇、二八七と訂正しなければならない。
このように投票人総数を変更したので、これを投票総数(有効投票と無効投票の合計)との関係につき審査したところ、
市長 市議会議員
投票人総数 九〇、二八五 九〇、二八七
投票総数 九〇、二八五 九〇、二八三
となり、市長の場合は投票人総数と投票総数が一致するし、市議会議員の場合は投票人総数より投票総数が四票少くなるが、この四票は選挙人が投票所の混雑のため投票用紙を持帰つたものと推定する外はない。従つて前述のとおり市委員会の事務処理に一部粗漏の誹りは免れないが、その間に何等の不正も行われた事実は認めることができない。
二十、の点について
市委員会保管の投票所受付簿、不在者投票に関する調書及び不在者投票封筒につき調査したところ、左表のとおり両者共に誤りがある。
投票所
普通投票人数
不在者投票人数
計
十八
市委員会発表数
市長市議は同数
三、六九一
七五
三、七六六
原告の主張数
右同
三、六九二
六八
三、七六〇
被告委員会調査数
市長
三、六九一
七五
三、七六六
市議
三、六九一
七六
三、七六七
十二
市委員会発表数
市長市議は同数
四、九三二
一一三
五、〇四五
原告の主張数
右同
四、九二八
一一二
五、〇四〇
被告委員会調査数
市長
四、九三二
一一三
五、〇四五
市議
四、九三二
一一二
五、〇四四
これは前記のとおり不在者投票数の処理の誤りにより生じたものである。
又原告は、投票人数より投票総数が多くなると主張するが、両投票所関係の開票所(第十八投票所は第五開票所、第十二投票所は第四開票所)の投票総数を調査の結果、右いずれの開票所においても投票人数に比較し投票総数は同数若くは少数となつているので原告の主張は理由がない。
二十一、の点について
先ず投票用紙の購入関係については、市委員会は初め福岡刑務所において十万枚を印刷したが、有権者の増加と購入投票用紙の中に印刷不良等があつたので、熊本市京町株式会社稲本報徳舎で二千枚を追加印刷しているので、市委員会発表の投票用紙購入数は正確である。
次に焼却関係については、市委員会保管の公文書により昭和二十六年四月十一日委員長の決裁を経て印刷不良及び破損等の投票用紙二一二枚を焼却している。
更に投票用紙使用数については、前記十九点について述べたとおり市議会議員選挙の投票人総数は、市委員会の発表に誤りがあり九〇、二八七枚の投票用紙が使用されている。又投票用紙は右以外に投票当日投票所で汚損のため八枚交換使用されており不在者投票において投票用紙の交付を受けたが、棄権した者の分八十八枚があるので、投票用紙総使用数は九〇、三八三枚となる。従つて投票用紙使用数と投票人総数は符合しないのが当然であり、市委員会の発表した
投票用紙購入総数 一〇二、〇〇〇枚
同 使用数 九〇、三八三枚
同 焼却枚数 二一二枚
同 残数 一一、四〇五枚
は正確である。
又市委員会関係者は投票用紙の焼却数が千何枚だと候補者に言明したこともないので、原告の主張は何等理由がない。
二十二、の点について
選挙当時の失格者、死亡者、誤載者、不在者投票者、不在者投票用紙未返還者等の数は、市関係選挙後に県関係の選挙があり又その後公法施行令第十八条の規定により選挙人名簿は市委員会において整理されているので、何者も選挙人名簿によつては、これらの数を調査することはできないのである。又市関係選挙当時の失格者、死亡者、誤載者の数については、市委員会公表の書類以外には調査する資料がないので、これが資料にもとずいて調査したところの市委員会の発表は正確であつたものと断ずるの外はない。
しかしながら、不在者投票者、不在者投票用紙未返還者の数については前記十九点で明かにしたところにより左表のとおり両者共に誤りがあるが、前記二十点で明かにしたとおり投票人総数に変更をきたすも何等投票総数に異動を生ずるようなことはない。
(一) 不在者投票人数
開票区別
一
二
三
四
五
六
計
市委員会発表数
五〇二
一三六
三三四
三八五
三四四
三八六
二、〇八七
原告の実態調査数
四四五
一二〇
二九一
三五五
三四〇
三四九
一、九〇〇
被告委員会調査数
市長
四九九
一三六
三三三
三八三
三四二
三八三
二、〇七六
市議
五〇〇
一三七
三三四
三八一
三四四
三八二
二、〇七八
(二) 不在者投票用紙未返還数
開票区別
一
二
三
四
五
六
計
市委員会発表数
一三
四
一二
二二
一四
一四
七九
原告の実態調査数
三三
四
九
二五
一〇
一〇
一〇三
被告委員会調査数
市長
一六
五
一三
二四
一六
一六
九〇
市議
一五
四
一二
二六
一四
一七
八八
二十三、の点について
(一) 大牟田市印を投票用紙に押印したのは公法第四十五条、公法施行規則第五号様式第六号様式、第八号様式により投票用紙に大牟田市印を押すべきことの規則を制定告示していなくても市選管委において本件選挙の投票用紙の様式及びこれに押すべき印を大牟田市印とすることを決定告示しているので、様式違反であるとの原告の主張は理由がない。
(二) 投票用紙を不正に交付された事実がないから、仮にこれに捺印のないものがあつたとしても、選挙の管理執行に違背があつたとは認められない。
二十四、の点について
投票用紙の追加印刷分が四千枚注文されたことは事実であるが、それは市長選挙の投票用紙二千枚、市議会議員選挙の投票用紙二千枚であつて、しかもこれらの投票用紙は昭和二十六年四月二十日に大牟田市役所用度係に納品され、同日用度係から同市選管委に渡されている。従つて原告の主張は理由がない。
二十五、の点について
第三開票区の無効投票四百票は開票録によつて明かであるから、その紛失の事実は認めるけれども、これをもつて直に当該選挙の手続に違背があつたものとは言えない。
二十六、の点について
原告主張の(一)、(二)の事実は認めるが、何等投票用紙の増減の事実があつたとは認められないから、選挙の管理に違法はない。
二十七、の点について
原告主張のように検証の結果による候補者の得票数と開票録によるその得票数に多少の誤差があることは認めるが、これを以て直ちに選挙の管理規定に違背したとは言えない。
二十八、の点及び二十九、の点について
二十八の点における原告主張の無効投票の数並に二十九の点における投票の有効か無効かの認定に関する原告の主張は、いずれもこれを争う。而して右はいずれも当選無効の争にかかる事項であつて、選挙無効の原因とはなり得ない。
なお(一)同一筆跡の投票があることについては、公法第四十八条の規定により身体の故障又は文盲により自ら公職の候補者の氏名を記載することができない選挙人は、投票管理者に申請し、投票管理者が投票立会人の意見を聴いて選任する者をして、その候補者一人の氏名を記載させ投票箱に入れさせることができるのである。右の規定により選挙人から代理投票の申請があつたときは、同法施行令第三十九条(現行公法第四十八条)の規定により投票立会人の意見を聴いて選挙人の投票を補助すべき者二人を定め、その一人に投票の記載をする場所において、投票用紙に当該選挙人が指示する候補者一人の氏名を記載させ、他の一人をこれに立合わせなければならないのである。この代理投票における補助者は、常時投票所に入所できる投票事務従事者、投票立会人の中から決定するのが慣例であり、この投票事務従事者等の数は限りがあるので、選挙人数人の代理投票に同一人が補助者となり投票の代筆をすることが起る。これは投票録によつて明かである。又本件選挙において投票当日のみで代理投票は一、六三五票もある。(投票録で明かである。)その他同法施行令第五十六条第三項、第五十七条第三項及び第五十八条第二項の規定により不在者投票においても代理投票ができるので、同一筆跡の投票がでてくるのは当然である。(二)投票整理用紙に書かれた文字と投票用紙に書かれた文字とに同一筆跡があることについては、前述のとおり代理投票の際補助者となつて投票の代筆をするのは投票事務従事者、投票立会人等であつて、このうち投票事務に従事した者は開票管理者から開票事務従事者に委嘱され、開票の際開票事務に従事するものが多いのである。従つて投票の際代理投票の補助者として投票の代筆をした者が開票の際投票用紙を整理して、整理用紙に候補者の氏名を書くことがあり得るので、同一筆跡が多数あつても又整理用紙と投票用紙に同一筆跡があつたとしても、直に違法の事実があつたとするのは当らない。
三十、の点について
投票用紙を持ち廻つて選挙の自由公正を害したという原告主張のような事実は存しない。
三十一、の点について
二以上の選挙が重複して執行される場合における不在者投票の際、選挙人が不在者投票用封筒に誤つて他の選挙の投票用紙を封入したときは、原告主張のような事実が発生し得るのであつて、かかる事実があつたとしても何等選挙の管理執行に違背があつたとは言えない。
三十二、の点及び三十三、の点について
投票用紙の残数については原告主張のような事実があつたとしても、残数は反古紙に等しいので何等選挙無効の原因とはなり得ない。
要するに、選挙が無効となるためには、公法第二百五条の規定にいう「選挙の規定に違反すること」がありしかも「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合」でなければならない。選挙の規定に違反するとは、選挙の管理執行の手続に関する規定に違反することであり、選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合とは、選挙の規定の違反が若しその違反がなかつたならば選挙の結果につき或いは異つた結果を生じたかも知れぬと思料せられる場合をいうのである。よつて右により考察するに、本件選挙は事務処理上一部粗漏のあつた点は認められるも、これらをもつて直ちに公法第二百五条の規定に該当するものとは言えないので、本件選挙は無効とすることはできない(立証省略)。
三、理 由
原告が昭和二十六年四月二十三日施行の大牟田市議会議員選挙(以下本件選挙と略称する。)に立候補したものであること、原告が法定の期間内に市選管委に対し右選挙の効力に関する異議申立をなしたが、同委員会は原告の右申立を採択しなかつたこと、これに対し原告は更に同年五月十六日被告委員会に訴願を提起したところ同委員会も亦昭和二十七年二月二十三日原告の訴願棄却の裁決をなしたことは当事者に争がない。
よつて原告が右選挙は無効であると主張する各理由につき順次判断を進めることとする。
第一点
成立に争のない甲第三百六十四号証、第三百六十五号証、乙第一号証によれば、本件選挙において、中島町三十五番地の一、古賀文子外一名が第九投票区と第十四投票区の基本名簿に、大字手鎌、西田ユキ外四名が第三投票区と第八投票区の基本名簿に各重複登録されていた外、投票区の異る基本名簿と補充名簿に重複登録されていた者が二十五名、同一投票区の基本名簿と補充名簿に重複登録されていた者が十九名、異る投票区の補充名簿に重複登録されていた者が五名あつたことを認めることができる。
原告は、これらの者に対しては入場券が二重に配布されているので、すべて二重投票したものと推定し得られるが故に、明かに一人一票の法則に違反すると主張するので、按ずるに選挙人名簿に重複登録された前記五十六名に対して入場券が二重に配布されたであろうことは、右重複登録の事実自体から、これを推認し得られるけれども、入場券の二重配布を受けたからといつて直にこれらの者がすべて二重投票したものと断定することはできないのみならず、むしろ前掲甲第三百六十四号証と同第三百六十五号証とを対照すれば、前記古賀文子外一名は第九投票所で投票したのみで、第十四投票所では投票していないことが認められ、右認定に反する甲第一、二号証及び証人古賀文子こと松村ふみ子の証言は措信し難く、他にこれを動かすべき証拠は存しない。
なお仮に前記五十六名中に二重投票をなした者があつたとしても、単にそれだけの数の無効投票を生ずるに過ぎないから、当該投票の効力を争う当選争訟の原因とはなり得ても選挙無効の原因とはなり得ないものというべきである。
次に原告は、前記のような重大な誤載の存する選挙人名簿は前年度の名簿をそのまま使用したものと断ずる外なく、右は名簿調製手続に違反するから該名簿は無効であり、これを用いて行つた選挙も亦無効であると主張するので、この点について考察するに、本件選挙人名簿に前記のような誤載があつたことを以て直に前年度の名簿をそのまま流用したものと推断することはできないのみならず、本件に顕われた全立証によつても該事実を認めるに足りない。然らば該選挙人名簿は市選管委において権限にもとずき法定の手統を履践して調製し有効に確定したものと推定すべく、従つてこれが調製手続の過程における調査の疎漏等の原因により、その記載内容に前記のような誤載があつても、これがため選挙人名簿の無効を来すようなことはないものと解すべきであるから、該選挙人名簿によつて施行せられた本件選挙も亦無効とはならないものといわなければならない。
そうだとすれば、選挙人名簿の調製手続に違法があることを前提とする原告の選挙無効の主張は採用することができない。
第二点
大正町四丁目九十八、猿渡美意子が第十投票区(投票所大正小学校)の補充名簿に登録された選挙人であつて、入場券の配布がなかつたので、選挙当日投票所に出頭し係員にその旨を告げて投票をなさんとしたところ、既に何人かが同人名義を以て投票していたので、同人が投票できなかつたことは当事者間に争がない。
原告は右は、選挙当務者において公法第五十条第二項の規定を践まず、第三者投票を理由として正当な選挙人の投票を拒否した違法があると主張するけれども、元来選挙管理者の個々の選挙人に対する投票拒否の問題は、投票を拒否された選挙人の投票と、更に又本件の場合には何人かが右拒否された選挙人名義を以て為した投票とについて当該投票の効力を争うものとして、当選争訟の原因となるは格別、選挙争訟において選挙無効の原因としてこれを主張するのは、その主張自体からして理由がないというべきであるから、この点に関する原告の主張は採用の限りでない。
第三点
原告は、選挙当日第八投票所においては、午後六時の閉鎖時刻には二列に並んでいた約百五、六十名の選挙人に対し順次入場せしめていたが、午後六時三十分頃突然選挙係員が行列の中途から遮断して追い帰したけれども、それらの者の中約二、三十名が潜入して投票したと主張し、又第十九投票所においては、午後六時の定刻後も入口を閉鎖しないで約八十名の選挙人に入場を許し、更に閉鎖後も約二十名の選挙人に投票せしめたと主張するけれども、原告の援用する甲第三、第四、第六号証及び証人中島進、寺田美雄、庄山泉、の各証言中原告の主張事実に添う部分は後記各証拠に照して措信し難く、他には右主張事実を認めるに足る証拠なく、むしろ証人松尾三吉の証言により成立を認め得る甲第五号証に同証人、証人柿原辰五郎、松下貞治、小柳実、松岡五良の各証言を綜合すれば、第八投票所においては投票所の施設にあてられた明治小学校の教室が狭隘であつたため、午後六時の閉鎖時刻までに同校構内に到着した四、五十名の選挙人全部を投票所施設内に収容することができなかつたので、選挙事務従事者において、これらの者は、いわゆる投票所にある選挙人と認めて該施設外に整列させ、遂次入場せしめて午後六時三十分頃までに投票を終了したものであつて、定刻後同校構内に到着した選挙人に対しては投票を拒否したことを認め得べく、又第十九投票所においては、選挙事務者が午後六時の閉鎖時刻十五分前頃同投票所にあてられた三里小学校の講堂附近にあつた百数十名の選挙人を督促して全部該施設内に収容して定刻には投票所を閉鎖し、その後は全く選挙人の入場を許さなかつたことを認めるに足るので、(なお原告が請求原因事実として明かに主張するところではないが甲第七号証の記載及び証人小宮身成の証言によれば第十八投票所(投票所三川小学校)の閉鎖時刻が不統一であつたもののようにあるけれども、この点に関する同号証の記載及び右証人の証言はたやすく信用し難い。)原告の主張するような投票所の閉鎖時刻に不統一の違法があつたものとはいえない。
第四点
新港町六小森勝逸が第十六投票区の基本名簿に登録せられ、昭和二十六年四月二十日死亡したものであるのに、同人名義を以て普通投票がなされていることは当事者間に争がなく、又八尻町三丁目、小宮正光が第十一投票区の基本名簿に登録せられ、同月十八日死亡したものであるのに、同人名義を以て普通投票がなされていることは成立に争のない甲第八、第九号証によつてこれを認めることができる。
思うに右の如き投票は、氏名詐称による不正投票として当然無効のものと認めるべきであるが、かように選挙期日の数日前に選挙人が死亡した場合は、一般に当該選挙管理者において死亡の事実を知り得ないことが多かるべきが故に、選挙人名簿の修正をなし、以てかかる不正投票を防止する措置に出でることは実際上期待し得られないところであるから、右投票の管理執行の違法は、これを認めるに足る確証の存しない限り管理者の作為による不正行為であるとは到底認め難いのみならず、しかも本件の場合無効投票の数も確定しているので、結局個々の投票の効力に関する当選争訟の原因とはなり得ても、選挙無効の理由としては妥当性を欠くものというべきであるから、この点に関する原告の主張は採用の限りでない。
第五点
平原町百三十二番地の二、池尻チヨが第十二投票区の基本名簿に、明治町二番地の二、猿渡初次が第八投票区の基本名簿に各登録されていたもので、前者は昭和二十六年四月十七日、後者は同月十九日いずれも死亡しておるのに、投票録及び不在者投票に関する調書には、右両名は共に不在者投票をなした旨処理されてあることは当事者間に争がない。
然らば、右両名名義を以てなされた不在者投票は、いずれも無効投票と認めざるを得ないけれども、右の如き事由は前記第四点において説示したとおり、管理者の不正行為によることが積極的に認められない限り、当選争訟の原因となり得るは格別、選挙を無効とすべき理由にはならないので、この点に関する原告の主張も理由がないものというべきである。
第六点
本件選挙における第二開票所及び第六開票所の開票立会人が当初から抽籖により選定せられたことは当事者間に争がないので、右は明かに当該選挙当時の公法第六十二条の規定に違反するものというべきである。
然しながら、かような方法によつて開票立会人を選定するに至つた事情について考察するに、証人川崎源吾、池松三二、清水繁、鳥越義孝の各証言によれば、当該開票管理人においては、当初法定の互選の方法によりこれが選定をなすべく準備を進めたけれども、候補者の届出による立会人となるべき者の数が右各開票所とも数十名に達し、それらの者が互選の方法によるのは徒労に終るのみなることを主張して譲らなかつたので、開票管理者においても止むを得ず当初から抽籖の方法によつてこれを選定する外なしと決したものであることを窺い知ることができる。
然らば開票立会人の選定について右の如く互選手続を省略し当初から抽籖の方法を採つたとしても、あながち選挙の公正を担保するための公法の規定を無視した措置に出でたものとは認め難く、又候補者から届出のあつた正当な立会人の立会を拒否したことも当らないものというべきであるから、右の措置を採つたことを以て選挙の自由公正を害しその結果に異動を及ぼすべき虞があるものとは解し難いので、この点に関する原告の主張は採用の限りでない。
第七点
本件選挙における第四開票所の開票管理者平田憲市が開票直前本件市議会議員選挙と同時選挙であつた市長選挙の投票用紙(白票)一枚を所持していたことは当事者間に争のないところである。
原告は右事実を以て、選挙事務従事者がその職権を濫用して不正に投票数の増減を図り、選挙の自由公正な執行を阻害したものであると主張するので、按ずるに、原告援用の甲第十、第十一号証及び証人藤間朝雄、井上保幸の各証言によつても未だ原告の右主張事実を確認するに足らず、むしろ証人平田憲市の証言によれば、右平田憲市は開票前日の選挙当日に投票管理者として投票事務に従事したものであるところ、投票所閉鎖後書類の取片附けをなす際、自己の机上にあつた書類をポケツトにしまうとき、これと共においてあつた当該投票用紙のうちの一枚がまぎれ込んだものであつて、同人において何等これにより不正行為をなす意図があつたものでないことが窺えるので、これを以て原告の主張するように、選挙事務従事者が、その職権を濫用して不正行為をなさんと図り、選挙の自由公正を阻害したものということはできないから、この点に関する原告の主張は採用し難い。
第八点
原告は本件選挙における各候補者の得票数には、開票管理者の投票用紙の不正所持又は開票事務担当者の不正改ざん等により、からくりされた違法があると主張するので、按ずるに原告援用の甲第十二乃至第十六号証及び証人寺田義雄、松尾敏一、古賀喜太郎の各証言によつても未だ原告の右主張事実を認めるに足らず、その他該事実を認め得る確証は存しない。
然らば市選管委の発表にかかる各候補者の得票数は公正に計算されたものと推測すべきであつて、その間開票管理者又は開票事務従事者の不正行為により数の増減が行われたものとは認め難いので、この点に関する原告の主張は採用することができない。なお個々の投票の効力を争い各候補者の得票数に異動を及ぼすことを主張するのは、当選争訟においては、これを許さるべきも、選挙争訟の理由とはなり得ないこと勿論である。
第九点
原告は本件選挙における第十七投票所(川尻小学校)では、その投票記載場所が同時に行われた市長選挙の投票記載場所との区別が明にされておらず、又他の投票所でもこれが明示不十分であつたため、右両選挙を通じて投票用紙を取り違え投票したことによる無効投票が合計八千票の多数を算した旨主張するので、按ずるに原告援用の甲第十七号証及び証人小磯信太郎、松尾敏一の各証言中原告の右主張事実に添う部分は後記各証拠に照して措信し難く、他に該事実を首肯せしめるに足る確証は存しない。むしろ証人古賀義恵の証言及び前記小磯証人の証言の一部に検証の結果(昭和二十八年七月二十九日施行)を綜合すれば、右両選挙における第十七投票所は川尻小学校の校舎の一室に設けられ、該施設としては、その室の東側出入口を投票所入口と定め、入口外部の左側壁の目の高さの位置に、幅一尺五寸余長さ二尺四寸の白紙に「最初は市長(黒刷投票用紙)次は市議会議員(赤刷投票用紙)ですから間違のないように御注意下さい、投票管理者」と記載した注意書が、市長候補者氏名表及び市議会議員候補者氏名表と共に並べて貼られ、その内部には入口から向つて左側に六ケ所の市長投票記載場所が、右側に同数の市議会議員投票場所が各設けられ、市長投票記載場所の最前端(入口より見て)の人目につき易い位置に、板に貼られた横一尺六寸、長さ二尺三寸の白紙に前同様の文言を記載した注意書を立て、更に各該当投票記載場所の上方に、それぞれ横一尺二寸縦二尺四寸の白紙に「市長投票記載所」及び「市議会議員投票記載所」と記載した表示紙を糸でつるして掲げてあつたのみならず投票事務従事者において、口頭を以て選挙人に対し前記注意書の内容と同趣旨の事項を告げてその注意を喚起し、投票用紙も各別個に交付して、選挙人をして右両選挙の投票の順序を取り違えないように各般の措置を講じた事実を認めるに十分である。然らば、右第十七投票所における投票記載場所の明示について、選挙の管理執行に違法が存したものとは到底認められず又その他の投票所における投票記載場所の明示について施設の不完全であつたことを認めるに足る証拠は存しないので、たとえ右両選挙を通じて投票用紙を取り違えたための無効投票が相当多数存したとしても、このことを以て直ちに投票記載場所の設備が不完全であつたことに起因する旨の原告の主張事実はこれを認めることができない。従つてこれを理由とする選挙無効の主張は採用に値しない。
第十点
原告は、本件選挙における選挙人山本アサノ、内野ハル、奥園フサの代理投票については、補助者の立会なく又文盲者に投票の読聞かせもなさず、なお山本アサノの分は代筆者が独断で投函したと主張するけれども、原告の右主張事実に添う甲第十八、第十九号証及び証人長江英雄、奥園フサの各証言は後記各証拠に照して措信し難く、他に該事実を認めるに足る証拠は存しない。却つて証人山本三郎、河野広登の各証言を綜合すれば、当該投票所における代理投票については、投票管理者及び投票立会人においてすべて法規に従い適法にこれを処理したものであることが認め得られるのみならず、仮に前記三名の代理投票について原告主張のような違法が存したとしても、当該投票所における代理投票の処理について、すべて右の違法が存し、そのため不定数の無効投票を生じたというが如き、選挙全体の効力に影響するような事由の存することが認められない限り、右は当該個々の投票の効力に関する問題に過ぎないので、結局選挙無効の原因とはならないものというべきであるから、この点に関する原告の主張も理由がない。
第十一点
本件選挙において、開票管理者が各開票所とも投票箱を開くに当り、該投票箱の封印者たる投票立会人の立会を求めなかつたことは本件弁論の全趣旨からこれを窺えるところである。然しながら元来開票管理者において投票箱を開くについてその封印者を立会わしめることは法の要求しないところであり、而して投票管理者において投票の終了後投票箱に封印をなすのは投票箱の閉鎖後開票までの間に投票の増減などの不正行為がなされないようにするための措置に外ならないことは洵に明かであるけれども、開票管理者は各候補者の利益を代表する開票立会人の立会の下に該投票箱を点検の上開くのであるから、当該開票管理者において投票箱の封印者を立会わしめないで投票箱を開いたとしても、これを以て選挙の公正を担保する選挙法規の精神に違背したものとはならない。
又原告は、第二十六投票所(笹原小学校)の投票箱が開票所に送致の途中、貨物自動車から落下し、投票が附近に散乱した事故が発生したと主張するけれども、証人糸永猪六、島添三郎、池田嘉三郎の各証言によつても該事実を確認するに足らず、その他これを認め得る証拠は存しないのみならず、右島添、池田両証人の証言によれば、却つて右投票所の投票箱は、これが送致中何等異変の存しなかつたことが認め得られる。
然らば、本件選挙の管理者及び立会人に職務執行の違法乃至投票箱管理に関する違法が存する旨の原告の主張は理由がないものといわなければならない。
第十二点
成立に争のない甲第二十、第二十二、第二十五、第二十七号証及び乙第一号証に証人城戸円、富永繁、下川房江、大久保鎌一の各証言を綜合すれば、原告主張の選挙人古賀クニ、城戸作太郎、末広静江、大久保ツル、下川ハル、原田登の六名が本件選挙において投票していないのに、選挙人名簿及び投票所受附簿には同人等が投票したように処理せられていることを認めることができる。原告は、これらは市選管委において開票後に数を合わせるため、右掲記の本人以外の者をして投票せしめた不正行為であると主張するので、按ずるに本件に顕われた全証拠によつても未だ原告の右主張事実を確認するに足らず、むしろ前掲乙第一号証に証人植里正二、砥上徳一の各証言を綜合すれば、他人が前記六名の氏名を詐称して投票した事実は全く存せず、しかるに選挙人名簿及び投票所受附簿に右の如く投票済みの旨処理されたのは、すなわち投票事務従事者において別人の投票に際し選挙人名簿の氏名下に投票済みの記号を附するのに、誤つて前記六名の氏名下にその旨の記号を附したことから、投票箱の封緘後に係員が入場券、投票用紙残数及び投票所受附簿に数の不突合の存することを発見したので、選挙人名簿の投票済みの記号が投票所受附簿に記載洩れがあつたものと勘違いして、その旨右受附簿に遺記したことに起因するものであることが窺い得られないでもない。次に原告主張の選挙人松岡五郎が投票していないことについては、これを認めるに足る証拠は全く存しないので、むしろ同人は前顕乙第一号証裁決書が選挙人名簿、入場券及び本人の陳述により投票した事実を確認しているとおり投票をなしたものと推測する外はない。
してみれば、この点につき管理者及び立会人の職務執行に関する違法があつて、選挙の自由公正を阻害することを理由とする選挙無効の主張は理由がない。
第十三点
古町、井戸川いちが第九投票区の基本名簿に登録せられた選挙人であつて、本件選挙において不在者投票をなしたものであるところ、選挙人名簿にはその旨の記載が存しないことは、証人城戸円の証言及び同証人の証言により成立を認め得る甲第二十八号証、成立に争のない乙第一号証によつて、これを認めることができる。原告は、これを以て投票が拒否せられたものであると主張するけれども、選挙人名簿に投票済みの記載が存しないことの一事のみにより直に投票が拒否せられたものとは認め難く、むしろ前掲乙第一号証によれば、投票録及び不在者投票に関する調書には投票済みの旨処理せられてあることが窺えるので、唯選挙人名簿にだけ投票済みの記号を附するのを脱落していたものと推測されるから、この点に関する原告の主張も採用し難い。
第十四点
証人藤山世智子の証言及び前顕乙第一号証を綜合すれば、西浜田町七番地、藤山世智子が第九投票区の補充名簿に登録された選挙人であつて、本件選挙当日第八番目に投票したものであることを認めることができる。
然るに原告は、投票所受附簿には、その旨の記載なく、いつの間にか「鷹尾チトセ」と取替えてあると主張し、成立に争のない甲第二十二号証(市選管委委員長作成名義の証明書)によれば、第八番目に投票した選挙人は「鷹尾チトセ」である旨の記載が存するけれども、該証明書が発行されるに至つた事情について考察するに、前記乙第一号証に証人藤山世智子、鷹尾チトセの各証言を綜合すれば、本件選挙において、藤山世智子は第九投票区の補充名簿の第二六八番に、鷹尾チトセは同投票区の基本名簿の第二六八番に各登録せられていたが、同投票区の投票所受附簿には第八番目に投票した者の選挙人名簿の番号が第二六八番と記載せられてあつたところから、市選管委の係員が同投票所の第八番目に投票した選挙人は右基本名簿の第二六八番の鷹尾チトセであると即断し、その旨の証明書を作成したものであることが窺われ、これを動かすべき証拠は存しないので、右甲第二十二号証のみにより、同投票所の第八番目に投票した選挙人を藤山世智子から鷹尾チトセに取替えたものと断定する訳には行かないから、この点につき選挙事務従事者の不正行為の顕現であるとなす原告の主張は採用することができない。
第十五点
証人岡本秋義の証言によれば、同人は第二十一投票区の基本名簿に登録せられた選挙人であつて、本件選挙当日は正午頃投票をなしたものであることを認めることができる。
ところで原告は、当該投票所受附簿によれば、同人は更に第三、二五七番で再び投票をなした旨処理せられてあると主張するけれども、原告挙出の全立証によつても該事実を認めることはできない。むしろ前掲乙第一号証、甲第二十七号証を綜合すれば、同投票所において受附番号第三、二五七番(最後から二番目)で投票した選挙人は当該投票区の基本名簿の第九七一番に登録された別人であることが窺い得られるので、この点に関する原告の主張は理由がない。
第十六点
原告は本件選挙期日の前日までに大牟田市外に転出した選挙人三百八十名が投票しているが、これは右選挙人名簿調製手続の違法に起因するものであると主張するので、按ずるに右のうち五十一名については被告においても市外転出者であるに拘らず投票をなしたことを認めて争わないところであり、原告援用の甲第三十四号証の一乃至八、第三十五号証の一乃至十二、第三十六、三十七号証の各一、二によれば、その他になお相当数の市外転出者が投票していることを疑わしめるものがある。そして右転出者の内には有効に選挙人名簿に登録され、その確定当時は選挙権のあつた者でその後に市外に転出したものもあり、又選挙人名簿調製当時既に市外に転出していた者で調査不十分のためこれに登録せられたものもあることが推測せられるから、右の如き事態の生じたのは結局選挙人名簿の内容に誤載が存したことによるものと推認する外はない。しかしながら前記第一点において説示した如く、選挙人名簿調製手続における調査の疎漏により、その内容に誤載を生じたとしても該名簿調製手続に関する法規違反の事実を認むべき確証の存しない限り、このことのみを以て直ちに該名簿の調製手続に違法あるものとしてその無効を来すようなことはなく、従つてこれによつて行われた選挙において前認定の如く相当数の選挙権のない者によつて投票がなされたとしても、(被告の認めて争わない選挙人本人が投票せず他の者が不正投票している九名の選挙人の投票も含めて)該無効投票数は入場券、投票所受附簿及び投票録等と対照すれば、これを確定し得るのであるから究極するところいわゆる潜在的無効投票処理の問題を生ずるは格別、選挙争訟の原因とはなし得ないものと解するを相当とするが故に、この点に関する原告の主張も亦理由がないものといわざるを得ない。
第十七点
原告主張事実は被告の認めて争わないところであるから、原告主張の選挙人小森勝逸外七名の名義を以てなされた氏名詐称による投票は勿論無効に帰すべきものであるが、右の如く確定数の無効投票の存することは前点同様当選争訟の原因たり得ても選挙無効の理由とはならないので、原告の主張は採用の限りでない。
第十八点
本件選挙の第五開票区において「上野英雄」と記載した投票が一票存し、それが無効投票として処理されたことは当事者間に争がない。原告援用の甲第三十九号証の記載及び証人小磯信太郎の証言中、右一票の外なおこれと同一の記載ある投票が一票存し無効投票として処理された旨の部分は信用し難い。
そして右投票は候補者「上野栄雄」に通ずるから、有効投票と認めて同候補者の得票数に算入すべきであることは被告も争わないところであるが、かようなことは前点同様結局個々の投票の効力に関する問題に過ぎないものというべきであるからこれを以て選挙無効原因とする原告の主張は採用し難い。
第十九点
本件選挙において、市選管委保管の投票済み不在者投票用封筒及び不在者投票に関する調書による不在者投票状況と市選管委発表の不在者投票状況との間に、原告主張のような誤差の存することは当事者間に争がない。
原告は、これを以て管理者において数を合せるためになした違法行為であると主張するけれども、原告援用の甲第四十、第四十一号証によつては該事実を確認するに足らず、他にこれを認め得る証拠は存しない。むしろ前掲乙第一号証によれば市選管委の発表に右の如き誤差を生じた所以は当該事務従事者において同時選挙である市長選挙と本件市議会議員選挙につきいずれか一方の不在者投票のみをなした投票者をその双方につき投票したものとして計算した事務処理上の疎漏によるものに過ぎないことが窺えるので、この点に関する原告の主張は認容し難い。
第二十点
原告は、本件選挙の第十八投票所及び第十二投票所における投票数について、市選管委の発表数と実際の投票数との間に誤差が存し、前者は市選管委の発表数が実際より六票多く、後者は市選管委の発表数が実際より五票多い旨主張するけれども、原告の右主張事実に添う積極的証拠は存しないのでこれを認めるに由なく、むしろ前掲乙第一号証によれば第十八投票所の投票数は三、七六七票で市選管委の発表数より一票多く、第十二投票所の投票数は五、〇四四票で市選管委の発表数より一票少いことが窺われ、しかも右の如き誤差を生じた所以は前点と同様不在者投票数の処理上の過誤にもとずくものと推測せられる。
なお原告は、市選管委は昭和二十六年八月三十一日第三開票区における投票者総数は一四、四八四名、棄権者総数は一、五三〇名である旨証明しながら、同日更に同開票区の棄権者総数は山本伝蔵外一、五〇〇名なる旨を証明したので、投票者総数はいきおい一四、五一三名とならざるを得ないに拘らず、市選管委は依然投票者総数は一四、四八四名として処理していると主張するので、按ずるに成立に争のない甲第四十二号証によれば、市選管委において前者の如き証明を、又成立に争のない甲第四十三号証によれば市選管委において後者の如き証明を、それぞれなしたことを認めるに足るけれども右甲第四十三号証はその末尾に記載せられた証明文言の趣旨に徴し窺える如く、選挙人名簿について投票済みの「/」印が記入されていない選挙人を直に棄権者と認めて、その旨の証明をなしたものであるところ、該証明の基礎となつた選挙人名簿に投票済みの「/」印が完全に記載せられたものとは断じ難く記載もれのあることも存するので、同号証記載の人員は正確な棄権者数と合致しないこともあり得るわけであるから、同号証のみによつて正確な棄権者数を確定するのは聊か当を失するものというべく、従つてかかる根拠に基ずいて証明せられた甲第四十三号証の棄権者数を論拠として管理者及び立会人等において故意又は過失により二十九票の有効投票を亡失せしめた職務執行上の違法があるとする原告の主張は他にこれを確認するに足る積極的立証の存しない限り採用することができない。
第二十一点
市選管委が本件選挙における投票用紙の購入総数及びその使用状況について
購入総数 一〇二、〇〇〇枚
使用 数 九〇、三八三枚
焼却枚数 二一二枚
残 数 一一、四〇五枚
と発表したことは当事者間に争がない。
原告は、市選管委は当初投票用紙の焼却枚数は千何枚であると言明した旨主張するけれども、右主張事実に添う証人山口高徳、寺田義雄、小木曾濶の各証言は信用し難く、むしろ証人堤静英の証言に徴すればかかる言明をなした事実はないことが認められる。又原告は、市選管委の発表によれば投票用紙は初め十万枚を福岡刑務所に印刷せしめたが、有権者の増加見越と印刷不良のものがあつたので、熊本市所在稲本報徳舎に二千枚を追加印刷せしめたとなつているが、右二千枚と追加印刷せしめたとの事実については、一万一千四百五枚の多数の残がある点及びこれをわざわざ隣県から購入したとの点からして、その追加購入については疑が存し、かたがた焼印の事実は認められない旨主張するので、按ずるに原告の右主張事実に添う前顕山口、小木曾両証人の各供述部分は後記証拠に照して措信し難く、むしろ証人川崎源吾、西貢、鳥越義孝、堤静英、川島伊三の各証言を綜合すれば本件選挙の管理者たる市選管委においては、当初投票用紙十万枚を福岡刑務所に印刷の注文をなし、昭和二十六年三月末頃これを収納したところ、これに市印を押捺する際印刷不鮮明破損及び截断不完全なものがあることを発見したので、委員長の決裁を経てこれらの投票用紙二百十二枚を焼却した事実があり、その後有権者の増加を見越し投票用紙に不足を来すようなことがあつては重大な支障を生ずるので、これが追加分として二千枚を購入することに決したものであつて、これを熊本市所在の印刷所に注文したいきさつは、市選管委から市会計課用度係にその請求をなしたので、同係において平素印刷物の注文先である熊本市所在稲本報徳舎に右投票用紙二千枚の印刷を注文したものであることを窺うに十分であるから、残数が一万余枚の多数に上ること(右は棄権者が多数あつたことにもよるものと推測される。)及び右追加分を隣県に注文したことを以て市選管委の該措置に疑が存するとなす原告の主張は理由がないものといわなければならない。
なお原告は、市選管委の前記発表が正しいとしても、投票総数は不在者投票を含めて九〇、二九六人であるから使用数に八十七枚の不足を生ずることとなる旨主張するけれども、原告援用の甲第十四号証の記載及び証人寺田義雄のこの点に関する供述部分は措信し難し難く、前顕乙第一号証及び甲第四十号証によれば選挙当日選挙人の投票用紙汚損によるこれが引換及び不在者投票用紙の交付を受けた選挙人の棄権等によつて、投票数と投票用紙使用数との間に右程度の不突合の生ずることもあり得ないものでもないことが窺えるから、投票用紙の使用実数は一応市選管委発表のとおりであると推測する外はないものといわなければならない。
そうだとすれば、市選管委発表の投票用紙焼却数二百十二枚及び原告主張の投票用紙不足分八十七枚について、管理者において投票用紙の交付に関する違法があることを理由とする原告の選挙無効の主張は採用することができない。
第二十二点
原告は、市選管委発表の統計表と選挙人名簿による実態調査との間に、失格者、誤載者、不在者投票者、不在者投票用紙未返還者、死亡者について誤差が存する旨主張し、不在者投票人数について九人(但し市議分)及び不在者投票用紙未返還者数について九人の誤差が存することは被告もこれを認めて争わないところであるが、これは右第二十点において説示したとおり、不在者投票の処理についての管理者の過誤によつて生じたものと認め得られないでもなく、又その他の誤差については、原告援用の甲第四十一号証の記載は措信し難く、他にこれを認めるに足る証拠は存しない。なお原告主張の実態調査なるものが、本件選挙直後の選挙人名簿によつたものとすれば、該名簿は公法施行令第十八条にもとずき既に修正せられたものではないかとも推測し得られるので、右名簿による実態調査を以ては市選管委発表の統計表の正誤を論じ得ないものといわなければならないのみならず、仮に原告主張のような誤差があるとしても、これがため直に本件選挙の投票数に異動を生ずるものとは考えられないから、かたがたこの点に関する原告の主張は首肯し難い。
第二十三点
(一) 原告は、本件選挙について投票用紙の様式及び交付に関する違法があると主張し、その論拠とするところは、すべて投票用紙には市選管委の公印を押すべきであるのに、市印を押してあるので、該投票用紙は市選管委の調製ではなく大牟田市の調製にかかるものというべく、従つて右投票用紙は選挙当日大牟田市が市選管委を通じて選挙人に交付したこととなつているというにあつて、これに対し被告は投票用紙に大牟田市印を押したことはこれを争わないが、右は適法であると抗争するので、先ずかかる大牟田市印を押した投票用紙の様式が適法であるかどうかについて考えてみるに、およそ地方公共団体の議会の議員選挙については、投票用紙の様式は当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会がこれを定めるべきものであることは、公法第四十五条の明定するところであつて、更に同法施行規則第五条別記第五号様式によれば、衆議院議員及び参議院議員の選挙に用いる投票用紙に押すべき都道府県の選挙管理委員会の印は、都道府県の選挙管理委員会の定めるところにより、都道府県の印又は市区町村の選挙管理委員会の印若しくは市区町村の印をもつてこれに代えてもさしつかえない旨定められてあるので、右公法の規定及び施行規則の精神に照すときは、本件選挙に関する事務を管理する市選管委によつて定められた一定の様式によつて調製せられたものである限り、投票用紙に市選管委の公印を押さずして、これに代えて市印を押しても、何等さしつかえないものと解すべきであるから、従つて該投票用紙の様式が有効か無効かを決する要点は一にかかつて市選管委が、かかる様式を適法に定めたか否かに帰するものというべきところ、成立の争のない乙第二号証、甲第三百六十九号証の一、第三百七十号証の二、三、第三百七十三号証の十、十三、第三百七十四号証に証人西貢、鳥越義孝の各証言を綜合すれば、昭和二十六年三月十二日開催せられた市選管委の会議において、投票用紙の様式について第二号議案として提案として提出せられ、当日審議の結果本件に用いる投票用紙には大牟田市印を押すことを可決し次いで同月二十六日開催の市選管委の会議において第十五号議案として審議の上右投票用紙の表面に押すべき大牟田市印を定めて同年四月上旬これを告示したことが認められ、原告挙出の全立証によつても、これを覆すに足らないので、該様式は法定の要件を具備するものというべきであつて、違式の投票用紙とはいえないこと勿論である。
もつとも原告は、この点に関し市選管委において投票用紙に大牟田市印を押すとすれば、予めその旨の規則を制定告示せねばならないのに拘らず、市選管委は右措置を採つていない旨主張し、なお本件投票用紙等の告示に関する前顕乙第二号証は後日の作成にかかる疑ありとし、その立証として甲第三百六十三号証、第三百六十七乃至第三百七十五号証(内第三百六十九、第三百七十、第三百七十一号証は各一乃至三、第三百七十二号証は一、二、第三百七十三号証は一乃至十八、第三百七十五号証は一乃至五)及び証人石橋薫の証言、鑑定人有元有蔵の鑑定の結果を援用するので、按ずるに、なるほどこれらの証拠によれば、市選管委において本件投票用紙の制定告示に至るまでの一連の手続に関する書類の作成等について事務処理上幾多の疎漏の点があつたことは否み難いところであるが、未だ右各証拠を以てするも前記認定を覆して乙第二号証が後記の作成にかかるもので市選管委が予め投票用紙の様式について市印を押すことを次で該市印をそれぞれ定めてこれを告示した事実を否定するに足りないのみならず、元来投票用紙は予め権限ある機関において定められたところに従い事実上一定の様式によつて、調製せらるれば足るものであつて、これに関する規則を制定し、且告示して選挙人にこれを周知せしめることは法の要求するところでないから、仮に乙第二号証の告示がなされなかつたとしても本件選挙に用いた投票用紙の様式に違法があることにはならない。
而して右認定の事実に徴すれば、本件選挙に用いた投票用紙は、その交付に違法があることを認むべき積極的立証の存しない限り、選挙当日投票所において投票管理者から、これを選挙人に交付したものと推定すべきであるから、投票用紙の様式及びその交付に関し違法の存することを理由とする原告の主張は採用に値しない。
(二) 本件選挙に用いた投票用紙であることにつき当事者間に争のない甲第二百十五乃至第二百二十二号証、第二百二十三号証の一、二によれば、原告主張の投票用紙十票については、所定の大牟田市印の押捺がないことが認められるけれども、積極的な反証のない限り右捺印もれの投票用紙も選挙当日選挙事務従事者から選挙人に対し本件選挙の投票用紙として交付せられたものであつて唯これに押印を欠いたのは選挙事務従事者の単なる過失によるものと推定すべきであるから、これを使用した投票は有効と解すべきであつてかかる投票用紙の交付を以て選挙無効の一因を為すものとする原告の主張は理由がないものといわざるを得ない。
第二十四点
市選管委が本件選挙に用いる投票用紙二千枚の印刷を熊本市所在株式会社稲本報徳舎に追加注文した旨発表したことは当事者間に争がない。
原告は、大牟田市において昭和二十六年四月二十日、納期を同月二十八日として、これを熊本市の稲本篤行に発注し、右納期である同月二十八日検収した旨を記載した文書は存在するけれども、果してこれに伴う投票用紙が検収されたか否か確認し難い旨主張し、原告援用の検証の結果(昭和二十七年十月十一日施行)によれば、右投票用紙の追加印刷に関する発注伝票並に物品請求購入票の形式及び記載内容が原告主張のとおりになつていることを認め得るけれども、市選管委において大牟田市役所会計課用度係を通じて、昭和二十六年四月二十日右投票用紙二千枚及び同数の市長投票用紙を検収したことは前記第二十一点において認定した事実に、証人西村政雄の証言により成立を認め得る乙第三号証及び同証人、前顕西、鳥越、川崎各証人の証言を綜合して容易にこれを認め得るところであつて、右認定の事実に徴するときは前記書類の形式に不備の点があり又それらの記載内容の日時に右認定の事実に符号しない点や訂正部分が存するのは、単なる内部における事務処理上の過誤によるものと推測する外はない。
更に原告は、仮に市選管委において前記投票用紙を検収しておるとすれば、その数は四千枚であつて、しかも本件選挙後五日を経過した四月二十八日を納期として発注し、これが購入については終始極秘裡に行動し、入手投票用紙中二千枚は選挙前既に実在したようにからくりをなし、その余の二千枚については使用状況が不明である旨主張するけれども、該主張事実に添う証人寺田義雄、山口高徳の各証言は、たやすく信を措き難く、却つて投票用紙の追加注文数は合計四千枚であつたが、本件市議会議員選挙及びこれと同時に行われた市長選挙用各半数宛であつて、これを市選管委で検収したのは選挙期日前の四月二十日であつたことは前認定のとおりであつて、本件に顕われたすべての証拠によつても未だ右認定を覆して原告の右主張事実を認めるに足りない。
然らば、この点に関し選挙の管理執行者の故意又は重大なる過失にもとずく違法行為により選挙の自由公正が阻害せられたことを理由とする原告の選挙無効の主張は採用することができない。
第二十五点
本件選挙において、第三開票区の無効投票が紛失したことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第三百六十二号証によれば、右無効投票は当該開票所から大牟田市役所庁舎に運搬途中か或はその到着後に紛失したものであることを認めることができる、それで、右認定の事実により公法及び同法施行令の規定上知り得らるることは、右第三開票区の開票管理者は同開票区の投票の点検を終つた後、これを有効投票と無効投票とに区別してそれぞれ別の封筒に入れ開票立会人とともに封印をし、これを投票録並びに開票に関する書類とともに大牟田市役所庁舎内の市選管委に送付するため運搬途中か或はその到着後に右無効投票が紛失したということである。原告は本件選挙の選挙会においては右無効投票紛失のため開票管理者の投票点検の結果の報告を調査することなくその儘漫然と各候補者の得票数を計算して当落の確認をなしているので、この点に関する手続上の違反があると主張するので按ずるに、本件選挙の選挙会が各候補者の得票総数を計算して当選人を決定するについて開票管理者の投票点検の結果の報告を調査しなかつた旨の原告主張事実はこれを認むべき何等の証拠も存しない。而して公法及び同法施行令の規定によれば、開票管理者は投票の点検終了後直ちにその点検の結果を選挙長に報告しなければならないが、その点検の結果を報告する場合にはあわせて開票録を選挙長に送付しなければならない、そして右点検の結果の報告を受けた選挙長は該報告を受けた日又はその翌日に選挙会を開き選挙立会人立会の上その報告を調査し各候補者の得票総数を計算して当選人を決定することになるのであるが、右のように点検済の投票は選挙管理委員会に送付し選挙長には送付しない法令の規定の趣旨に鑑みるときは、選挙会は右点検の結果報告の調査に当つては、開票所における点検済の投票について必ずこれを調査すべき法令上の立前にはなつていないことがわかる、もつとも、かかる投票の調査も選挙会において特にその必要ありと認めた場合には投票点検の結果報告の調査の一環としてこれをなすことは勿論できるけれども、これは選挙会において常になさねばならない職責のあることではないと解すべきである、従つて反証のない限り本件選挙会は、投票を調査する必要なしとしてこれが調査の権能を行使することなくして投票の点検の結果の報告を調査して各候補者の得票総数を計算し当選人の決定をなしたものと認めるべきであるから、前記無効投票の紛失がたとえ本件選挙会開催前に生じたことであつたとしても本件選挙会の手続の施行には何等の障害も来さなかつたものであつて、この点に関する手続にも違反したものではないということができる。
のみならず大体選挙会における手続は、投票を開票管理者において点検して有効投票と無効投票とに区別し且つこれを計算したる上、これ等開票に関する手続及び開票の結果等を開票録に記載して明かにした後に、開票管理者よりなされた右点検の結果の報告を調査して当選人を決定するものであるから、仮に選挙会において無効投票の調査をなさなかつたことが違法であるとしても、これがため影響を受けるのは右無効投票中に或は存することあるべき有効投票を算入しないで各候補者の得票総数の計算をなしたということその結果当選人の決定に誤りのあることがあるということであつて、その間投票の増減や改ざん等の不正行為の介入すべき余地は全く存せず従つて選挙の公正は何等そこなわれる虞はないので、これを無効として更に選挙をやり直す必要はなく、右当選人の決定に対しては異議ある者より当選の効力を争うてこれを是正すれば足るものと解するを相当とする、而して原告主張のように無効投票が選挙会の投票点検の結果報告の調査前に紛失したとしても該無効投票の数は開票録によつてこれを確定することを得るものであるから右に述べた結論にかわりはなく、従つて無効投票の調査をなさなかつたことを以つて直ちに選挙無効の原因なりとする原告の主張は採用の限りでない。
第二十六点
原告の主張事実は被告もこれを認めて争わないところであるが、元来選挙法規は点検後の投票について、有効無効を区別し市町村の選挙管理委員会において、当該選挙にかかる議員、長又は委員の任期間これを保存すべき旨を規定するのみであつて、その他保存の形式等については別段の定めをなさないので、適当な方法によつてこれをなせば足るものと解するの外なく、殊に投票の保存なるものは選挙終了後の措置に過ぎないのであるから、その保存方法に多少の不完全な点があつたとしても、これを以て選挙自体の自由公正を阻害したものとは到底認め難いので、この点に関する原告の主張は採用することができない。
第二十七点
本件選挙において、候補者中二十七人につき開票録による得票数と検証の結果による得票数との間に誤差の存することは、被告もこれを認めるところであるが、右は管理者の不正行為の結果によるものであることを認め得る積極的な立証は存しないので、右の事実は各候補者の得票数算定に異動を生ずる結果、当選に関して異動を及ぼす虞はあるけれども、選挙の全部又は一部の結果に異動を及ぼす選挙無効の理由にはなり得ないことが明であるから、この点に関する原告の主張は採用することができない。
第二十八点
原告は、本件選挙において、有効投票中無効投票とみるべき票が別紙第二表記載のとおり合計三千八百九十七票存するがかように無効票の存するのは、管理者及び立会人の職務執行に関する違法に基因する旨主張するので、按ずるに、およそ有効投票と決定せられたものの中に、無効投票の存することを主張するのは、結局個々の投票の効力を争うことに帰着するのみならず、仮に相当多数の無効投票が存在したとしても、その原因を直に選挙の管理執行の違法に帰せしめることは、該事実を認めるに足る積極的立証なくしては、到底これを肯認するに由なきを以て、この点に関する原告の主張も採用し難い。
もつとも原告は、無効投票中、同一筆跡のもの及び投票整理用紙の筆跡と同一筆跡のものが相当数存在する旨主張するので、この点につき考えるに、代理投票及び代筆投票(公法第四十八条、同法施行令第五十六条乃至五十八条)なる制度を認め且投票事務従事者が重ねて開票事務に従事することのある現在の選挙においては、同一の投票事務従事者が相当数の代理投票の補助者となつて投票用紙に候補者の氏名を記載し又は開票事務従事者として投票整理用紙に候補者の氏名とその得票数等を記載するようなことが起り得ることは容易にこれを推測するに難くないので、かかる場合それらに同一筆跡のものが現われるのはあえて異とするに足りないところであつて、これらが管理者の不正行為にもとずくものであることが認められ且その数を測定し難いような場合は格別、単に同一筆跡の投票が相当数存する事実のみを以ては選挙無効の理由となすに足りないので、この点に関する原告の主張も亦採用し難い。
第二十九点
原告は、無効投票中有効投票と見るべきものが十票存するとして、これを以て管理者及び立会人の職務執行に関する違法であるとし、本件選挙の無効なることを主張するけれども、本来有効な投票が無効投票として処理されたとしても、それは単に当選の結果に異動を及ぼす虞があるに過ぎないから、その一事を以て直に管理者及び立会人の職務執行に関する違法が存するものと認めることはできないので、右の事実は選挙無効の原因とはなり得ないものというべきである。
第三十点
本件選挙の無効投票中、投票用紙を細かく折り畳んだものが八枚存したことは、被告の明かに争わないところであるが、多数の選挙人中には投票用紙を投函する際かような措置に出でるものがないとは保障し難いので、僅か数枚のかかる投票が存した事実のみを以て選挙の管理執行に違法があるとは到底考えられないから、この点に関する原告の主張も理由がない。
第三十一点
本件選挙において、県議会議員選挙の投票用紙が一枚投函されていたことは、本件選挙の投票用紙であることにつき当事者間に争のない甲第三百六十一号証によつて明である。
原告は、これを以て管理者の職務執行に関する違法であると主張するけれども、本件選挙に次いでその七日後に県議会議員選挙が行われたことは公知の事実であるから、右の事実に徴すれば、或は不在者投票をなした選挙人において、投票用紙を取り違え、県議会議員選挙の投票用紙を本件市議会議員選挙の不在者投票用封筒に封入して投票したのではないかと推測されないこともないので、右一票の存在することを以て直に管理者の職務執行に関する違法であつて、不法選挙の行われたことを推認する事由となすに足りないので、原告の主張は理由がない。
第三十二点
原告は、市選管委発表の投票用紙残数一万一千四百四枚中、別紙第三表記載の如く破損したもの著しく汚損したもの又は印刷不正確なもの等が百二十五枚存し、右は数を合わせるため、かき集めたもので、市選管委が不良又は破損票二百十二枚を焼却した旨の発表と矛盾し、選挙に不正が行われたことの現れであると主張するけれども、市選管委が選挙期日前に投票用紙中使用に適しないもの二百十二枚を焼却したことは前記第二十一点において認定したとおりであるが、なお他にもかような不良品が残存していなかつたとは断定できないし、選挙終了後の反古紙に等しい投票用紙残数中に百二十五枚の不良のものが混入していたからといつて、直に不正選挙が行われたことを具現するものとは認め難いので、この点に関する原告の主張は理由がない。
第三十三点
原告は、本件選挙における投票用紙残数が、市選管委発表の如く一万一千四百五枚であるとしても(実在数は一万一千四百十一枚)第二十七点の得票数の誤差による減票三十六枚、第二十八点の市長選挙投票用紙を用いた投票を有効としたことによる減票八枚、第三十一点の県議会議員選挙投票用紙の混入による減票一枚及び投票数に算入された船員投票二票計四十七枚を加算するときは、一万一千四百五十二枚なければならないのに実際一万一千四百十一枚に過ぎないので、差引き不足数四十一枚は選挙関係者において不正に使用又は措置されたものと思料せられる旨主張するけれども、原告主張の右市長及び県議会議員選挙の投票用紙の混入による九枚の減数については、或は当該選挙人に交付されたこれに相当する数の本件選挙の投票用紙が誤つて市長及び県議会議員の選挙に投票されたのではないかと推測されないでもなく、なお選挙終了後の残数の計算に数十枚の不足を生じたからといつて、右事実を以て直に選挙関係者においてこれを不正に使用又は措置したものとして、管理者及び立会人の職務執行に関する違法ありとなす原告の主張は採用することができない。
原告主張の個々の請求原因事実に対する判断は以上のとおりであるが、なお原告は右各事実を累積統合するときは、選挙無効原因の一として採用せらるべきである旨主張するので、按ずるに公法第二百五条の規定の趣旨に照すときは、選挙無効を生ずる場合は、選挙の管理執行の手続に関する規定に選反することがあつて、しかもその違反が選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合に限らるべきものなるところ、本件について原告の主張する個々の請求原因事実を以上認定したところに従つて綜合して考えると、第一点(但し原告主張の如き二重投票の事実ありとして)、第二点、第四点、第五点、第十六点、第十七点、第十八点、第二十七点、第二十八点、第二十九点及び第三十点は、純然たる当選争訟の原因とはなり得るとしても、選挙争訟たる本件においては、これが主張は理由がないことに帰するので、これを累積してもその理は変らないものというべく、第十一点、第二十四点、第二十六点、第三十二点及び第三十三点は、これを統合するも選挙の自由公正を阻害し、その結果に異動を及ぼす虞のある違法とは到底認め難く、又第一、第十六点は選挙人名簿調製についての調査の疎漏が存し、第六点、第七点及び第二十五点は、いずれも選挙の管理執行の手続に関する規定乃至その精神に違反したものといい得るであろうが、その違反の程度は左程重大でなく選挙の公正を担保するための規定違反にも当らないので、かかる程度の違反は未だ選挙の結果に異動を及ぼす虞のないことが推測され、更に以上の各事実を統合して観察するも、本件選挙が自由公正に行われたことを疑わしめ選挙全体の効力を否定すべき程度の管理執行の手続上の違法が存するものとは到底認めることができない。
よつて本件選挙の無効なることを主張する原告の本訴請求は認容し難いので、これを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 野田三夫 川井立夫 天野清治)
(別表省略)